「うちみたいな会社に9,000万円なんて、どうせ関係ないでしょ」
「8月31日から受付って聞いたけど、もう準備が間に合わない」
——2026年8月26日時点、この2つはどちらも事実と違います。
ものづくり補助金と新事業進出補助金が1本化された「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」(通称:新もの補助)は、第1回公募のスケジュールが1ヶ月まるごと後ろ倒しになりました。そして「最大9,000万円」という見出しの裏側には、補助事業が終わったあと3〜5年間、賃上げを続ける義務と、未達なら返還という条件が組み込まれています。
補助金は「取れるか」で判断する時代から、「取ったあと5年、自社が耐えられるか」で判断する時代に変わりました。今日は生成AIの新機能の話ではなく、その原資をどう設計するかの話です。
1. まず日付を直す──受付は9月30日開始、締切は10月30日18時
結論:ネット上に出回っている「8月31日受付開始/9月30日締切」は古い情報です。事務局サイトの公募スケジュールは、以下のとおり書き換えられています(旧日程は取消線付きで併記されています)。
- 公募開始:令和8年6月29日(月)
- 申請受付:8月31日(月) → 9月30日(水)
- 応募締切:9月30日(水)18時 → 10月30日(金)18時(厳守)
- 採択発表:令和8年12月 → 令和9年1月(予定)
公募要領も8月14日に1.2版へ更新され、8月24日には応募申請ガイドが公開されました。制度が動いている最中です。春に読んだ解説記事の日付をそのまま信じないこと。これが第一の落とし穴です。
実務上の意味は2つあります。ひとつは、準備期間が丸1ヶ月増えたこと。もうひとつは、採択が年明けにずれた分、交付決定と設備発注のタイミングが年度をまたぐこと。交付決定日より前に発注・契約した経費は一切補助対象になりません。「先に発注して、あとから申請」は確実に落ちます。
2.「最大9,000万円」は101人以上の話──自社が狙える上限を先に確定する
結論:見出しの最大額ではなく、自社の従業員数と枠で上限は決まります。新もの補助は3つの枠に分かれており、「どの枠か」を決めない限り事業計画は1行も書けません。
| 項目 | 革新的新製品・サービス枠 | 新事業進出枠 | グローバル枠 |
|---|---|---|---|
| 狙い | 革新的な新製品・新サービスの「開発」 | 既存事業と異なる新市場・高付加価値事業への「進出」 | 輸出に向けた国内の製造・供給体制の「強化」 |
| 補助上限(従業員数別) | 1〜5人:750万円 6〜20人:1,000万円 21〜50人:1,500万円 51人以上:2,500万円 |
1〜20人:2,500万円 21〜50人:4,000万円 51〜100人:5,500万円 101人以上:7,000万円 |
新事業進出枠と同じ |
| 賃上げ特例適用時 | 最大3,500万円 | 最大9,000万円 | 最大9,000万円 |
| 補助率 | 中小1/2(条件により2/3) 小規模・再生事業者2/3 |
中小1/2(条件により2/3) | 一律2/3 |
| 補助下限額 | 100万円 | 750万円 | 750万円 |
| 必須の経費 | 機械装置・システム構築費 | 機械装置・システム構築費 または 建物費 | 機械装置・システム構築費 または 建物費 |
| 実施期間 | 交付決定から10ヶ月以内 | 交付決定から14ヶ月以内 | 交付決定から14ヶ月以内 |
中小企業の現場感覚で言えば、従業員20人以下の会社が現実的に見るのは「革新枠の750〜1,000万円」か「新事業進出枠の2,500万円」です。ただし新事業進出枠は補助下限が750万円。つまり自己負担を含めて1,500万円以上の投資計画が組めないと、そもそも土俵に乗りません。
注意点をもう一つ。1公募につき1社1申請で、親子会社などの「みなし同一事業者」もまとめて1申請です。また、事業再構築・新事業進出・ものづくり・新もの補助のいずれかで申請締切日から16ヶ月以内に採択された事業者は申請できません。過去3年で合計2回以上交付決定を受けた事業者も対象外です。まず自社の「補助金履歴」を確認してください。
3. 本当の関門は審査ではなく、”事業が終わったあと3〜5年”
結論:この補助金の核心は採択率ではなく、補助事業終了後3〜5年の達成義務です。しかも2つは未達なら返還と明記されています。公募要領(第1回・1.2版)が定める基本要件は次のとおりです。
- 付加価値額:年平均成長率+4.0%以上(営業利益+人件費+減価償却費)
- 一人当たり給与支給総額:年平均成長率+3.5%以上 → 未達なら未達成率に応じて返還
- 事業場内最低賃金:毎年、実施場所の地域別最低賃金より+30円以上 → 未達なら「補助金額÷計画年数」を返還
- ワークライフバランス要件:次世代法に基づく一般事業主行動計画の策定・公表
- 子育て等に関する職場環境整備の取組(3つの選択肢から1つ)
- 金融機関要件:借入で実施する場合は「金融機関による確認書」の提出
さらに厳しいのが賃上げ要件の手続きです。目標値を交付申請時までに全従業員(または従業員代表)へ表明していなかった場合、交付決定を取り消し、補助金全額の返還。金額の話ではなく「社内にきちんと伝えたかどうか」で全額飛びます。
そして「賃上げ特例」で上限を9,000万円まで引き上げる場合、条件は上乗せされます。給与支給総額は年平均+6.0%、事業場内最低賃金は+50円以上。どちらか一方でも未達なら、引き上げ分の全額を返還です。
ここが経営判断の分かれ目です。2026年10月からの地域別最低賃金引き上げに加えて、自社だけさらに+30円(特例なら+50円)を数年間維持し続ける。その原資を、補助対象の設備やシステムが本当に生み出すのか。「補助金が出るから買う」ではなく「この投資で人件費を年3.5%上げ続けられるか」が、実質的な申請要件です。
4. AI・IT・Webの費用はどこまで通るのか──通る線と、通らない線
結論:AI/SaaSの利用料は通りますが、「専ら補助事業のため」でなければ一発で対象外です。補助対象経費の細目には、デジタル投資まわりの線引きがはっきり書かれています。
通るもの
- 専用ソフトウェア・情報システムの購入、構築、借用(機械装置・システム構築費)
- クラウドサービス利用費(サーバー領域の借入費、サービス利用料、付帯するルータ使用料・通信料等)
- 補助事業のPRに係るウェブサイトの構築(広告宣伝・販売促進費)
- 開発した新製品・サービスやシステムに対するペネトレーションテスト・脆弱性診断(セキュリティ診断)、JC-STARラベル取得時のセキュリティ評価の外注費
通らないもの
- 自社の他事業と共有するクラウドサービス(「専ら補助事業のために使用」でない時点で対象外)
- パソコン・タブレット・スマートフォンの本体費用
- サーバー本体の購入費・レンタル費
- 既存の機械装置・システムの単なる置き換え
- 市販のウイルス対策ソフトの購入費
実務でつまずくのは1行目です。ChatGPTやGeminiの法人プランを「全社で使う」形で計上すると、専用性が説明できず落ちます。補助事業専用のアカウント・環境として切り出し、契約と請求を分けておく設計が必要です。
上限にも注意してください。技術導入費と知的財産権等関連経費は補助対象経費総額の1/3、外注費は1/4、専門家経費は1/5、広告宣伝・販売促進費は事業計画期間1年あたりの新製品等売上見込みの5%が上限です。「システムは自社で組まず全部外注」という計画は、比率の壁で削られます。
そして最重要。事業計画書は申請者自身が作成しなければなりません。外部支援者による代筆が発覚した場合は不採択・採択取消・交付決定取消です。認定支援機関の助言は可、代筆は不可。ここは明確に線が引かれました。
5. 締切前に間に合わなくなる「事務手続き3点セット」
結論:申請そのものより、前提となる手続きの所要日数で落ちる会社が毎回出ます。逆算してください。
- GビズIDプライムアカウント:発行に約1週間。遅れによる締切延長は一切なし
- 一般事業主行動計画の公表:「両立支援のひろば」への掲載審査に1〜2週間。不備で差し戻されることもあるため、2週間以上の余裕が推奨されています
- 子育て等に関する職場環境整備の取組:ライフデザインサービスの活用/家事代行・ベビーシッターサービスの活用/既存制度の従業員への周知——から1つ選び、応募時に事業計画へ記載、実績報告時に証憑を提出
締切は10月30日18時。逆算すると、9月中旬までにGビズIDと行動計画の公表を終わらせるのが安全ラインです。今日から数えて3週間しかありません。
なお、2026年秋は補助金が同時並行で動いています。省力化投資補助金〈一般型〉第8回は9月中旬受付開始・10月中旬締切(採択発表は2027年2月上旬予定)。デジタル化・AI導入補助金2026は4次締切が8月25日で終了し、5次以降の日程は未公表です。同じ設備・経費を複数の補助金に重複計上することはできません。どれで何を取るか、先に整理しておく必要があります。
まとめ:経営者が今週やること
- 自社の枠と上限を確定する。従業員数×枠で狙える金額は自動的に決まります。同時に「給与総額を年3.5%上げ続けられる投資か」を電卓で確かめる。
- GビズIDプライムと一般事業主行動計画の公表を、9月中旬までに完了させる。ここは純粋な実務作業なので、今日着手すれば間に合います。
補助金は「もらうお金」ではなく、「5年分の約束と引き換えに前借りする資金」です。約束できる計画だけを出しましょう。
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出典
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回)1.2版(PDF)
- 公募スケジュール|新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(中小機構)
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 トップページ(中小機構)
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第1回公募要領を公開しました|中小企業庁
- <新事業進出・ものづくり商業サービス補助事業>第1回公募要領を公開しました|中小機構プレスリリース
- 中小企業省力化投資補助事業(一般型)の第8回公募要領を公開しました|中小企業庁
- 事業スケジュール|デジタル化・AI導入補助金2026
※本記事は2026年8月26日時点の公開情報に基づくものです。金額・要件・締切は改訂される場合があります。申請前に必ず各事務局の最新の公募要領をご確認ください。
