「契約書のチェックは、顧問の先生に全部お願いしているから大丈夫」
「これからはAIに読ませれば、専門家はいらなくなるのでは?」
どちらも、半分ずつ外れています。2026年10月15日、MicrosoftはWordの中で契約書をレビューする法務AI「Copilot for legal」の提供を始め、翌16日には国内の法務AI「LegalOn」が締結前後の契約書を自動で紐付ける機能を発表しました。ChatGPT・Gemini・Claudeといった汎用AIに続き、普段使いの業務ソフトそのものに“法務の目”が入り始めています。
一方で、AIが出した修正案を「誰が最終判断するか」には、法務省の考え方や行政書士法の改正といった制度上の線引きがあります。本記事では、中小企業の経営者と、顧問先を支える士業が今週決めておきたい4つの線引きを整理します。
1. Microsoftが「Copilot for legal」を提供開始──契約書レビューがWordの標準機能に近づいた
結論:AIの性能より先に、「自社の契約チェック基準(プレイブック)」をWordファイルで作れるかが勝負です。
Microsoftは10月15日、Microsoft 365 Copilotの商用ライセンス利用者向けに、法務向けプラグイン「Copilot for legal」の展開を始めました。20を超える法務スキルを備え、Windows版Wordと、複数のアプリやファイルをまたぐ作業を担う「Cowork」で使えます。
- Word:契約書をプレイブック(審査基準)と照らしてレビューし、修正案を変更履歴で示す。回答には該当箇所へ飛べる番号付きの引用が付く。Windows版Wordでは既定でオン
- Cowork:利用者が「Legal for Cowork」を追加して使う。義務・期限の抽出や契約書の比較などの多段作業を担う
- 連携:Docusign、Box、Harvey、Bloomberg Lawなど20社超のパートナー製プラグインが、順次追加される予定
- 制限:契約レビューは現時点で.docx形式のプレイブックに基づくものに限られ、Microsoftは「法的助言は提供しない」「出力の確認は利用者の責任」と明記
実務での使い方/リスク:「支払サイトは60日以内」「損害賠償の上限は契約金額まで」といった自社ルールを1枚のWordにまとめておけば、AIが同じ基準で毎回チェックできます。逆に基準がない会社では、AIの赤入れの良し悪しを判断できません。また既定でオンになるため、Microsoft 365の管理者は、管理センターで利用を許可するかどうかを決めておく必要があります。なお、日本語での動作や国内の提供条件は、公式ページに明記されていないため、導入前に自社環境で確認してください。
2. LegalOnが「締結版と交渉経緯」の自動紐付けを開始──契約は“最終版だけ”保管では足りない
結論:契約書は「締結版」と「審査・交渉の経緯」をセットで残す時代です。
LegalOn Technologiesは10月16日、契約管理機能で、締結版の契約書を登録すると、対応する締結前の契約書を探して同じ契約の版として自動で紐付ける機能の提供を始めたと発表しました。契約書名・当事者・本文の類似度から判定し、同一契約である確度が高い場合のみ自動で紐付けます。
実務での使い方/リスク:締結前と締結後で登録する人や時期が違うと、「なぜこの条項になったのか」が後から追えなくなります。専用ツールを入れていない会社でも、「取引先名_契約種別_日付_版数」のファイル名ルールと、修正理由をメモする欄を決めるだけで、AIに読ませたときの精度と、トラブル時の説明力が上がります。
3. 法務省の考え方──AIの「具体的な修正案」は、使い方次第で専門家の領域に入る
結論:AIの赤入れは“下書き”。紛争の芽がある契約は、AI結果で判断を完結させないことです。
法務省は令和5年8月、「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」を公表しています。個別の事情を法的に分析して具体的な修正文案を表示するサービスは、弁護士法第72条の「法律事務」に当たり得る一方、ひな形との照合や文言の類似性に基づく表示にとどまれば、通常は当たらないと整理しています。また、弁護士が自ら契約書を精査し、AIの結果を活用しながら必要に応じて修正する形であれば、通常は同条に違反しないとしています。
実務上の考え方:このガイドラインはサービス提供者側の論点を整理したものですが、利用する側にとっても「AIの修正案をそのまま最終判断にしない」ための目安になります。取引先と条件でもめている、損害賠償が絡むといった案件は、AIで論点を洗い出したうえで弁護士に確認する、という順番が安全です。
4. 改正行政書士法が施行中──「AIで申請書を作ります」業者への依頼は要注意
結論:許認可の書類作成を外部に頼むなら、「誰が・どの資格で」作るのかを必ず確認してください。
2026年1月1日に施行された改正行政書士法では、行政書士でない者の業務の制限(第19条第1項)に「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言が加わり、手数料やコンサルタント料といった名目でも、報酬を得て業として書類作成等を行うことが制限対象であると明確にされました。あわせて、行為者だけでなく法人も罰する両罰規定が整備されています。また、行政書士の職責として、デジタル社会の進展を踏まえ情報通信技術の活用などで国民の利便向上と業務の改善に努めることも定められました。
実務上の考え方:「AIツールの導入費に申請書作成も含みます」「補助金コンサル料の中で許可申請も代行します」といった提案は、今回の改正の趣旨から見て慎重に確認すべきです。一方、法律は士業にもITの活用を求めており、AIで下準備を効率化し、資格者が確認・提出する形が、これからの標準になっていきます。
4つの線引き 比較表
| テーマ | 何が起きたか | 社内でAIに任せること | 専門家に回す場面 |
|---|---|---|---|
| 契約レビュー | 10/15 Copilot for legal 提供開始(Word・Cowork) | 自社基準での一次チェック、変更履歴での論点洗い出し | 基準にない条項、金額の大きい契約 |
| 契約管理 | 10/16 LegalOn 締結版と締結前版の自動紐付け | 版の整理、期限・義務の抽出 | 更新・解約で条件交渉が必要なとき |
| 修正案の扱い | 法務省ガイドライン(令和5年8月) | ひな形との差分確認、論点メモ | 紛争の芽がある案件の最終判断 |
| 許認可書類 | 改正行政書士法(2026/1/1施行) | 必要書類の洗い出し、社内資料の整理 | 報酬を払って外部に書類作成を頼むとき |
まとめ:経営者が今週やること
①自社の「契約チェック基準」をWord1枚にまとめる、②外部に頼む書類は「誰が・どの資格で」作るかを確認する。この2つを決めるだけで、AIは“丸投げ先”ではなく“頼れる下準備役”になります。
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Green Village株式会社は、行政書士として許認可・補助金の実務を担いながら、中小企業の生成AI導入・業務改善を支援しています。「契約チェック基準づくり」「AIに任せる範囲の線引き」から、デジタル化・AI導入補助金2026やリスキリング助成金(人材開発支援助成金)の活用、AI最適化HP制作・AIO対策、セキュリティ診断・サイト移設まで、お気軽にご相談ください。
出典
- Microsoft Support:Get started with Copilot for legal
- Microsoft Learn:Manage Copilot for legal(管理者向け)
- Artificial Lawyer:Microsoft Launches Copilot for Legal(2026年10月15日)
- ビジネス+IT:米マイクロソフト、法務AI「Copilot for legal」を提供開始
- LegalOn Technologies:「LegalOn」、締結前後の契約書情報を自動紐付け(2026年10月16日)
- 法務省:AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について(令和5年8月)
- 総務省:行政書士制度
- 総務省:行政書士法の一部を改正する法律 要綱
